建設業界の労働環境は改善が急務:長時間労働と担い手不足が深刻
建設業界では労働時間が他産業よりも長く、担い手不足が将来的に深刻な問題となる可能性があります。これらの課題を放置すれば、インフラ整備や災害対策が滞り、国民生活に重大な影響を及ぼす恐れがあります。
長時間労働と高齢化による担い手不足
厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によると、建設業界の年間総実労働時間は2,056時間で、全産業平均の1,807時間と比べて300時間も長くなっています。これにより、従業員の負担が増し、離職率の高さが課題となっています。また、建設業界では日給制が一般的(全体の約6割)で、収入減を避けるため週休2日を取得できる従業員は1割にとどまっています。さらに、社会保険に未加入の企業も多く、労働環境の整備が遅れています。
一方で、建設業界の就業者約500万人のうち、約3割が55歳以上という状況です。10年後には団塊世代の大量退職が予想され、労働力の大幅な減少が懸念されています。若い世代の担い手が育たなければ、建設現場が機能しなくなるだけでなく、インフラ整備や災害対策が遅れるリスクが高まります。
- 年間総実労働時間:1年間に従業員が実際に働いた時間の合計。平均労働時間が長いほど従業員の負担が大きくなる。
- 日給制:働いた日数に応じて給与が支払われる制度。労働時間が多いほど収入が増えるが、休むと収入が減る。
- 団塊世代:1947年から1949年に生まれた世代で、退職時期が重なることで労働力の急激な減少が懸念される。
建設業界の労働環境の改善には、週休2日制の普及、社会保険の整備、若年層の雇用促進が必要不可欠です。迅速な対策が求められています。
建設業界の働き方改革が進行中:長時間労働の是正と生産性向上が鍵
建設業界では、長時間労働の是正や生産性向上を目指した国を挙げた働き方改革が進行しています。この改革により、労働環境が改善され、業界全体の魅力向上が期待されています。
働き方改革の具体策とその目的
国土交通省は2018年に「建設業働き方改革加速化プログラム」を策定し、以下の3つの柱を中心に施策を展開しています。
- 長時間労働の是正
公共工事で週休2日制の普及を進め、民間工事にも試行モデルを導入。また、週休2日の実施に伴い、工事に必要な経費を補正係数を用いて適切に計上できるよう制度を整備しました。これにより、労働者が安心して休める環境を提供しています。 - 給与と社会保険の改善
社会保険未加入企業への営業停止や指名停止といった厳しい措置を導入。これにより、全ての建設労働者が公正な保護を受けられる仕組みを確立しています。 - 生産性向上と技能者の評価
「建設キャリアアップシステム」を構築し、技能者一人ひとりにICカードを交付。就労実績や資格情報を記録することで、公平な評価と適切な処遇が可能になりました。また、ICT(情報通信技術)を活用した「i-Construction」を推進し、ドローンを用いた3次元測量や施工計画のデータ活用による効率化が進んでいます。
- 建設キャリアアップシステム:技能者の就労履歴や資格情報を一元管理する仕組み。公平な評価と処遇を実現する。
- i-Construction:ICTを活用して建設現場の生産性を向上させる国土交通省の取り組み。
建設業界の改革は、労働者の働きやすさを向上させるだけでなく、業界全体の発展を目指しています。この動きが持続すれば、未来の建設業はさらに魅力的な職場となるでしょう。
建設業界で働き方改革が加速:大手から中小まで改善の取り組みが拡大中
建設業界では、国の施策に呼応して業界内での働き方改革が進んでいます。大手企業から中小企業まで労働環境の改善に取り組み、労働時間削減や効率化を目指しています。
業界団体と企業の具体的な取り組み
- 業界団体の主導的な動き
全国建設業協会は2017年に「働き方改革行動憲章」を策定し、労働環境改善への意識を業界全体に促進しました。また、日本建設業連合会(日建連)は「週休二日実現行動計画」を立て、大手企業が改革に着手するきっかけを作りました。 - 大手企業の改革事例
- 竹中工務店:2017年に「ワーク・ライフ・バランス向上委員会」を設置し、労働時間の削減や休暇取得率向上を推進。トップダウンでの改革を進めています。
- 鹿島建設:2021年度までに週休2日制100%の実現、または年間104日の休日取得を目指す方針を掲げ、現場レベルでの意識改革に注力しています。
- 中小企業の取り組みと支援
中小企業でもICT(情報通信技術)の活用や人材育成が進んでいます。具体的には、ICT建機の施工単価を稼働状況に応じて設定するなど、柔軟な制度改正が行われました。また、入札時や施工時の書類作成負担を軽減する取り組みも進められています。
- ICT(情報通信技術)建機:ICTを搭載した建設機械。自動測量や施工管理を効率化することで作業時間を短縮。
- 週休2日制:1週間に2日の休日を確保する勤務体制。建設業界では現場のスケジュール調整が課題。
- 施工単価:工事に必要な単位あたりの費用。実際の稼働状況に応じて単価が変動する仕組みが導入されつつある。
大手企業の積極的なリーダーシップと中小企業への支援策により、建設業界全体での働き方改革が着実に進行しています。この流れが続けば、業界全体の魅力が向上し、担い手不足の解消にもつながるでしょう。
建設業界の働き方改革:ICT活用で効率化が進む
建設業界では、ICT(情報通信技術)を活用した業務効率化が進み、働き方改革を加速させています。スマートデバイスや最新技術を取り入れることで、事務作業の削減や現場作業の効率化が実現しています。
スマートデバイスや最新技術による業務効率化
- デジタル化による負担軽減
- 図面資料の閲覧:これまで紙で管理していた図面をタブレット端末で閲覧可能に。大量の図面を現場に持ち運ぶ手間がなくなります。
- 写真管理:工事写真をスマホアプリで撮影し、その場でクラウドに保存。工事現場別に自動振り分けされるため、帰社後の分類作業が不要になります。
- 監視カメラ:Webカメラやセンサーによる自動監視が可能となり、人力で行っていた監視業務を大幅に軽減します。
- 新技術の導入
- ドローン活用:土量計算や現場測量に活用され、作業の迅速化が進んでいます。
- 3Dプリンタ:部材の製造にかかる時間を短縮し、従来より効率的な工事が可能になります。
- 将来のロボット導入:ロボットの活躍により、さらなる自動化が期待されています。
- ICT(情報通信技術):情報を収集・管理・活用するための技術。建設業界ではデジタルツールを活用した業務効率化が中心。
- クラウド:データをインターネット上で保存・管理する仕組み。現場でのデータ共有やバックアップに活用される。
- 3Dプリンタ:3次元データを基に立体物を造形する装置。部材の製造や設計に用いられる。
ICT化により、建設業界の働き方は確実に進化しています。しかし、これらの技術の活用はまだ始まったばかり。今後、さらに多様なツールや方法が導入され、働き方改革が一層進むことが期待されています。