「熱中症」と聞くと、炎天下で働く建設現場の職人やスポーツ選手をイメージする方が多いかもしれません。しかし実際には、屋外だけでなく屋内で働く内装業者にも多く発生しています。
真夏の建築現場では、エアコンがまだ設置されていない状態で作業することが少なくありません。さらに、照明や機械の熱、閉め切った空間などが重なり、室内でも驚くほど高温多湿な環境が生まれます。内装業者は「外じゃないから大丈夫」と油断しがちですが、その油断こそが大きなリスクにつながるのです。
本コラムでは、内装業者に起こりやすい熱中症の実態とその要因、予防策、会社として取り組むべき安全対策、さらに求人活動においてもアピールできる取り組み事例を詳しくご紹介します。
内装業者に熱中症が多い理由
1. 空調が整っていない現場
新築やリフォーム現場では、エアコンや換気設備がまだ稼働していないことが多く、窓を開けても風が通らず熱気がこもりやすい環境です。鉄筋コンクリート造の建物では熱が蓄積されやすく、真夏には室内温度が40度を超えることも珍しくありません。
2. 作業姿勢と装備の影響
内装工事では、クロス貼りや床材施工、ボード貼りなど、前かがみやしゃがんだ姿勢での作業が多くなります。この体勢は体の熱を逃がしにくく、さらにマスクやヘルメット、安全靴などの装備が体温上昇を助長します。
3. 水分補給のタイミングを逃す
集中して作業を進めるあまり、水分補給を後回しにしてしまうのも大きな要因です。「もう少しで一区切りだから」と我慢しているうちに、体はどんどん熱をため込んでしまいます。
熱中症の症状とサイン
熱中症の初期症状は見逃されやすいのが特徴です。
-
めまい、立ちくらみ
-
筋肉のけいれんや足のつり
-
異常な疲労感や倦怠感
-
頭痛や吐き気
これらのサインを無視すると、意識障害やけいれんなど重篤な症状に至る危険があります。特に現場では「大げさに言えない」「休みにくい」と我慢してしまう職人も多いため、周囲が早めに気づくことが大切です。
実際にあった事故事例
厚生労働省の発表によると、建設業における熱中症による死傷者数は毎年200~300人規模で発生しています。そのうち約2割は屋内作業中に発生しており、特に内装工事や設備工事に従事する人々の割合が高いとされています。
ある事例では、真夏の鉄筋コンクリート造の新築マンション内でクロス貼りをしていた職人が、休憩を取らずに数時間作業を続け、突然倒れて救急搬送されたケースがあります。室内温度は38度、湿度70%を超えており、外気温より危険な環境であったにもかかわらず「室内だから大丈夫」という油断が悲劇を招いたのです。
内装現場でできる予防策
1. 定期的な水分・塩分補給
水分だけでなく、塩分を一緒に摂取することが重要です。スポーツドリンクや経口補水液を常備し、喉が渇く前に少しずつ飲む習慣をつけましょう。
2. 作業環境の工夫
現場の状況にもよりますが、可能であればサーキュレーターやスポットクーラーを導入し、空気を循環させるだけでも効果があります。扇風機を使用する場合は窓を開けて換気と併用するとさらに効果的です。
3. 服装や休憩の工夫
最近では冷却ベストや空調服といったアイテムも普及しています。少しコストはかかりますが、作業効率や安全性を考えると十分に価値があります。また、1時間に10分程度の休憩を取り、身体をクールダウンさせることも欠かせません。
会社として取り組むべき対策
教育と意識づけ
「熱中症は屋内でも起こる」という認識を社員に徹底させることが第一歩です。朝礼や定例会議で熱中症の危険性や予防法を繰り返し伝えることが有効です。
体調チェックの仕組み
作業前に「今日の体調はどうか」「睡眠は取れているか」といった簡単なヒアリングを行うだけでも予防効果があります。体調がすぐれない人には無理をさせず、交代できる体制を整えることが大切です。
備品の支給
会社が飲料水や塩飴、冷却シートなどを支給することで、従業員が安心して作業できる環境を整えられます。また、現場責任者に温湿度計を持たせ、数値に基づいた休憩指示を出せるようにするのも効果的です。
熱中症対策が求人活動にもつながる
人材不足が深刻な建築業界において、「従業員を大切にする会社」という姿勢は大きな採用力につながります。求職者が求人票を見るとき、給与や休日数だけでなく「どんな環境で働けるか」を重視する傾向が強まっています。
例えば、
-
空調服や冷却グッズを支給している
-
熱中症対策マニュアルを全社員に徹底している
-
毎年夏前に安全講習を実施している
こうした取り組みを求人情報に記載するだけで、「この会社は安心して働けそうだ」と感じてもらえます。
特に若手や未経験者は「現場仕事はきつそう」というイメージを抱きがちです。その不安を取り除く意味でも、熱中症対策を前面に出すことは非常に効果的です。
最新技術を取り入れた対策
今ではウェアラブルデバイスを活用して体温や心拍数をリアルタイムでモニタリングするシステムも登場しています。一定以上の数値になるとアラートが鳴り、作業員本人や管理者に通知が届く仕組みです。大規模な現場や協力会社が多い現場では、こうしたシステムを導入することで事故を未然に防げる可能性が高まります。
また、AIを用いた環境モニタリングでは、現場内の温度や湿度をセンサーで常時計測し、危険レベルに達すると自動でアナウンスする仕組みも開発されています。こうした最新技術は大企業だけでなく、中小規模の工務店でも導入できるようになりつつあります。
まとめ
「屋内だから大丈夫」という油断が、内装業者の熱中症を引き起こす大きな要因です。実際には、空調が整っていない現場や高湿度の閉鎖空間は、屋外以上に危険な環境となることがあります。早めの水分補給、作業環境の工夫、会社全体での安全対策が、命を守り、仕事を守ることにつながります。
さらに、熱中症対策を徹底する姿勢は、従業員の安全を守るだけでなく、求人活動においても「この会社なら安心」と思わせる大きな強みになります。人材不足の時代だからこそ、安全に配慮した働き方を示すことが、信頼される企業への第一歩なのです。