左官の仕事とは

日本では、気候条件や感染症対策などの観点から、左官職人が手掛ける自然素材を使った壁が注目されています。ここでは、建築に欠かせない左官職人の仕事内容やその役割について詳しく説明します。

左官職人の仕事内容とは

左官職人とは、主に「鏝(こて)」という道具を使って、建物の壁や床、天井、塀などに漆喰やセメントを均一に塗り、美しく仕上げる技術者を指します。左官職人の活躍の場は、一般住宅にとどまらず、ビルやマンション、店舗、お城、伝統的建築物、教育施設、テーマパークなど多岐にわたります。

左官の作業で特に重要視されるのが「塗り」の技術です。これには、床や壁の下地塗りだけでなく、タイル貼りや外壁の補修、エントランス部分への模様付けなど、多岐にわたる作業が含まれます。どの現場でも美しく仕上げるためには、長年の経験と直感で培った熟練した技術が不可欠です。

最近では、漆喰や珪藻土などの自然素材を使った塗り壁が、消臭、調湿、殺菌などの効果が期待されていることから、注目されています。特に感染症対策への意識が高まる中、室内での左官仕上げの需要も増えています。

左官職人の果たす役割

左官職人の歴史を辿ると、彼らは単なる建築業の一職人ではなく、重要な役割を担ってきたことがわかります。左官の仕事が広まったのは平安時代とされていますが、縄文時代には竪穴式住居の土塀を作る作業が既に行われていたと考えられています。飛鳥時代には土壁や漆喰が使用され始め、奈良時代には唐から鏝(こて)が伝来したとされています。

「左官」という言葉の由来は、平安時代の四等官制度での官位「属(そうかん)」に由来します。宮廷での建築や修繕工事を担当する職人に与えられた称号が「左官」となまり、現在の呼び名になったとされています。

現代においては、自然素材の再評価や内装デザインの多様化により、左官の仕事に再び注目が集まっています。日本の伝統的な技術を今に伝え、将来へと受け継いでいくための担い手として、左官職人の役割は非常に重要です。

 

左官屋さんの業務内容とは?主な仕事について詳しく説明

建物の塗り壁は、左官屋さんの最も代表的な業務の一つです。住宅やビル、マンションなどの建築現場で、下地材や仕上げ材を塗り重ねていきます。下地材にはモルタルやセメントが使用され、仕上げ材には土、漆喰、珪藻土などが用いられます。

左官屋さんが使用する鏝(こて)は数十種類にも及びます。作業の内容や広さに応じて最適な鏝を選び、指先の感覚を駆使して均一に美しく仕上げていくことが求められます。水回りの下地材を塗る際には、排水溝に向けて微妙な勾配をつけるなど、繊細な技術も必要です。こうした高い技術を身につけるためには、豊富な現場経験が欠かせません。

塗り壁以外にも、左官屋さんが手掛ける仕事には、タイル貼り、レンガ積み、ブロック積み、土間打ちなどがあります。これらの作業もまた、塗り壁と同様に床や壁を均等に平らに仕上げる必要があり、奥の深い仕事とされています。

左官屋さんに欠かせない道具と技術

左官屋さんは、材料や場所に応じて様々な道具を使い分けて塗り上げていきます。以下は、左官屋さんの仕事で必要な主要な道具とその用途についての解説です。

  • 鏝(こて)
    左官の仕事で最も重要な道具です。使用する材料や作業場所、季節に応じて適した鏝を選び、壁塗りなどの作業を行います。鏝の種類は1,000種類以上あるとも言われており、模様を描くためや塗る場所に合わせて使い分けることが大切です。
  • 鏝板
    鏝と一緒に使用する道具で、材料を鏝板に乗せて利き手で鏝を操りながら作業を行います。反対の手で鏝板を持ちながら進めるのが特徴です。
  • ひしゃく
    材料を容器からすくうための道具です。砂やセメントを量る際には、目盛り付きのひしゃくが便利です。素材にはステンレス製とプラスチック製があり、ステンレス製の方が耐久性に優れています。
  • トロ舟
    材料を練る際に使用するプラスチック製の四角い容器です。専用の練りクワを使って材料を練ると、作業がスムーズに進みます。
  • バケツ
    水の運搬や道具の洗浄に欠かせない道具です。ひしゃくと同様に目盛り付きのバケツを使用することで、水の量を簡単に測ることができます。
  • ローラー
    レンガ調や木目調、伝統的なパターンの模様を簡単に表現するための道具です。スタンプのように転がして使いますが、表面が乾く前に素早く均一な模様を入れ、継ぎ目が目立たないように仕上げる必要があります。
  • ディスクグラインダー
    円盤状の刃や砥石を回転させて壁を平らに削り、鏝を使って塗る前に壁面を滑らかにするための道具です。使用には特別教育を受けることが義務付けられています。

左官の魅力とは?

ここまで左官屋さんの仕事について詳しく説明してきましたが、その仕事の魅力とはどのような点にあるのでしょうか。

一生モノの技術が身につく

左官の仕事は、一人前になるまでには時間がかかりますが、技術を身につけることで一生涯役立てることができます。左官職人が仕上げる壁には高い付加価値があり、常に一定の需要があります。

一人前の左官職人になるには、一般的に約10年の修業が必要とされています。若い頃から修業を始めることで、多様な技術を習得するチャンスが広がり、将来的には高収入を見込むことも可能です。

自分のセンスで作品を仕上げられる

建築業界において、大工や鳶職人の仕事は、指定されたものを作り上げることが求められ、オリジナリティを発揮する余地は限られています。

しかし、左官の仕事は、使用する塗料や作業場所が決まっているものの、そのデザインや仕上げのスタイルは職人の腕に委ねられています。自分のセンスを活かして工夫を凝らし、オリジナリティを発揮できることが、左官の仕事の大きな魅力です。

左官職人になる方法

左官職人になるためには、左官を募集している企業に就職することが最も一般的な方法です。左官職は、未経験者でも多くの求人があるため、「左官職人になりたい」と思ったらすぐに挑戦できる職業です。また、左官の仕事にはインテリア装飾などの細かい作業も含まれているため、女性に向いている仕事もあります。

左官職人の年収

2019年の厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によると、左官職人の平均年収は約387万円とされています。これは特別に高いわけでも低いわけでもなく、平均的な収入です。また、ボーナスの平均額は31万円で、月収とほぼ同等の金額が支給されることが多いです。

ただし、男女間の収入差が大きいことが特徴です。左官の仕事は経験が重視されるため、作業内容や経験年数の違いが収入に大きく影響します。このため、女性が進出しにくい職業であることも顕著に表れています。

仕事に役立つ資格

左官職人として働く際に、取得しておくと役立つ資格が2つあります。

1. 左官技能検定1~3級

「左官技能検定」は昭和34年からある国家資格で、左官職人としての知識や技能が十分であると認められた者が取得できる資格です。1級を受験するには7年以上の実務経験が必要なため、まずは無資格でも受験可能な3級から挑戦してみるのがおすすめです。

2. 登録左官基幹技能者

「登録左官基幹技能者」は、左官職人としての最上位の資格で、一般の作業員よりも親方や経営者としての役割を目指す人に向いています。取得するには「実務経験10年以上、かつ職長経験3年以上」が必要で、資格を取得するまでに時間がかかります。そのため、「こういった資格もある」という程度の認識で問題ありません。

 

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