一人親方に知ってほしい上手なクレームの対処法

建設業界はクレームやトラブルが多発し、「クレーム産業」とまで言われることもあります。今回は、そうしたクレームに直面した際の「対処法」について考えてみたいと思います。

「クレーム産業」という言葉には、建設業界の3K(きつい、汚い、危険)に加えてさらにネガティブな印象があるかもしれませんが、この問題は最近のことではなく、長い間業界内で暗黙の了解として語られてきた事実です。

戦後の経済成長に伴い、建設業は日本の中核産業として発展してきましたが、特に昭和40年代から50年代にかけての住宅ラッシュの影で、多くのクレームや問題が発生してきたのです。

建設業では、元請業者や現場の近隣住民など多くの関係者と長期間にわたり密接に関わるため、クレームは避けられない問題となっています。コミュニケーションの齟齬や作業の不手際が原因で予期せぬトラブルに発展した経験をお持ちの方も多いでしょう。

「クレームゼロ」を目指すことは理想的ですが、実際にはクレームが発生した場合、その適切な対応によって事態を収束させることが重要です。

クレームの実態

環境省の調査によると、「騒音に関するクレーム」は年々増加傾向にあり、平成25年度には全国で16,000件以上が報告されています。そのうち約36%が建設作業の騒音に関するもので、工場や事業場に関する苦情の28%を上回る結果となっています。次いで多かったのは店舗の営業による騒音で、全体の約10%を占めています。

クレーム対応の基本:自分事として考える

建設業界では、他業種と比べても複数の会社や部署が異なる工程で作業することが多く、時には自分の担当工事に関係ないクレームを受けることもあります。そんな時に、どのように対処すべきかが問題です。

対処ポイント1:話を聞く

クレームを持ち込む相手は、感情的になっている場合が多いです。たとえ自分の工事に関係ないクレームであっても、まずは相手の話を最後まで聞くことが大切です。その上で、正確に内容を担当者や責任者に共有し、迅速に対応策を練りましょう。

早合点して自己判断で対応すると、後々さらなるトラブルや損害を引き起こすこともあります。例えば、電車の遅延による乗客のクレーム対応を考えてみてください。駅員は安全確認を優先しますが、乗客は早く到着することを重視しています。このように、相手の立場を理解し、冷静に対応することが重要です。

対処ポイント2:情報を共有する

クレームを受けたら、関係者としっかり内容を共有しましょう。クレームの共有は、単に解決策を見つけるだけでなく、今後のトラブル防止策を考える貴重な機会でもあります。クレームの事例を社内で共有し、ケーススタディを行うことで、社員や職人が「自分ごと」として考える訓練ができ、予防策のノウハウが蓄積されます。

クレーム発生時に気軽に相談できる雰囲気を日頃から作っておくことも、トラブル対応を円滑に進める上で非常に大切です。また、良い報告は後でも良いですが、悪い報告は迅速に行うことが信頼関係を保つ秘訣です。

対処ポイント3:記録に残す

クレーム処理の記録をきちんと残すことも重要です。何月何日にどんな事例が発生したのかを具体的に記録し、定期的に社内で共有する場を設けることで、正確な情報の伝達が可能になります。

クレーム対応の経験や失敗を「記憶」に頼るのではなく、「記録」として蓄積することが後々の対応に役立ちます。簡単な様式でも構わないので、継続的に事例を記録していくことが推奨されます。

クレームは、顧客が期待する水準を下回った時に発生します。常にお客様の期待を理解し、その期待を超えるサービスを提供することを心がければ、クレームは発生しにくくなり、万一トラブルが発生しても大事に至らないでしょう。

一人親方は、自身が個人事業主であり、いわば「自らの看板」として活動しているため、特に重要となるのがコミュニケーション能力です。

一人親方は、他にも何度かお伝えしている通り、「一人の経営者・事業主」としての立場であり、基本的に契約は請負形態となります。

そのため、取引先や現場の近隣住民とのトラブルが発生した場合でも、自分で対応しなければならず、その責任は全て自身にあります。クレーム対応において最も重要な点は、最初に「話を聞く」ことです。

誠実で迅速な対応は、クレームを処理するうえでの鍵となります。いかに真摯に相手の話に耳を傾け、状況を的確に把握し、それを関係者に共有しながら解決策を見つけていくかが、相手に与える印象に大きな影響を与えるのです。

ここで少し専門的な知識になりますが、クレームの境界線についての概念として「受忍限度論」があります。

この理論では、クレームとは『騒音や悪臭、振動など生活環境に関する問題において、近隣に迷惑を一切かけてはいけないのではなく、その迷惑が「受忍限度」を超えた場合にのみ、慰謝料や賠償の対象となる』という考え方です。

つまり、騒音や振動が受忍限度を超えたときは、そのレベルを下げるための対策が必要です。この受忍限度を超える前に、問題の兆候や火種を早めに察知し、適切な対策を講じることが重要です。

対策を怠れば、クレームが訴訟に発展し、裁判で慰謝料の支払いを命じられることもありますので、注意が必要です。

また、日本国内で「民泊」のサービスが急速に広がっている中で、工事段階だけでなくサービス提供後の近隣住民からのクレームも後を絶たない状況が続いています。過去にはレオパレス21が建築基準法違反のアパートを工事し、運営開始後に違反が発覚して問題となったケースもありました。

この事件では、設計士や施工に携わった職人の責任が問われました。現在では、多様な価値観や文化を持つ人々が利用する建物を、どのように設計・施工するかが職人にも求められており、工事中だけでなく、建物が利用され始めた後の影響まで考える必要がある時代になっています。

騒音規制に関する参考情報

工事に関連する騒音規制は「騒音規制法」で定められており、一般的に人が「静かだ」と感じる基準は45デシベル以下とされています。

建築工事における規制基準である80デシベルは、地下鉄の車内に相当するレベルであり、非常に大きな騒音とされています。これを受けて、建築工事には1日の作業時間や、同じ場所での連続作業日数に制限が設けられています。

あとがき

一人親方として仕事をする中で、クレーム対応は避けて通れない課題の一つです。クレームが発生する原因はさまざまですが、いかに適切に対処するかが、今後の取引や評判に大きく影響します。

特に一人親方は、自らが「会社の顔」であり、すべての責任が自分にかかってくるため、クレーム対応は自己の信用に直結します。

この記事では、クレーム発生時に大切な「話を聞く」「情報を共有する」「記録に残す」といった基本的な対処法を中心にお伝えしました。これらのステップを押さえることで、トラブルを最小限に抑え、信頼を築くことが可能です。

また、何よりも重要なのは、クレームを受けた際に誠実かつ迅速に対応することです。これにより、相手の信頼を失わずに関係を改善し、さらには今後の仕事にもつながることが期待できます。

クレーム対応は一見困難に思えるかもしれませんが、うまく対処することで大きな成長のチャンスにもなります。この記事が、皆さんの業務に役立つヒントとなれば幸いです。

 

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